福満景子のホームページ

第5回 素敵な日本語レッスン1

essay_title

第5回 素敵な日本語レッスン1

皆さん、こんにちは。フリーアナウンサーの福満景子です。今回から5回にわたって「素敵な日本語レッスン」と題して、分かりやすくお伝えしていきます。

改めて簡単に自己紹介いたします。約2年勤務した日本銀行から、NHKキャスターに転身して

フリーアナウンサーの一歩を踏み出してから20年経ちました。その間、主婦として専念した時期も長いのですが、そんな間にも声がかかれば番組やCMナレーション、婚礼司会などの仕事や、読み聞かせなどのボランティアは続けてきました。

3人の子育てをしながら身をもっと気付いたことは、子どもはとても素直で吸収力が高いことです。そんな天才たちにはより丁寧に話すことが大切だと感じています。だから、素敵な日本語が散りばめられた絵本は最高の教本。そんな教本の「読み聞かせ」は素敵な日本語を伝えることにも通じるので、これから幅広く、長く続けたいと思っています。

親子間だけでなく夫婦間でもお互いの思いを言葉にすることはとても大切ですよね。夫婦や家族など身近な間柄こそ、日頃から思いを言葉にして伝えることは大切だと思います。日々忙しく過ごしていると、つい思い込みで自分に都合よく解釈してしまうこともしばしば起こりがちです。

単純な私などは言葉通り素直に受け取ってしまい、「そうだったんだ」と後になって本当の意味に気付くこともあります。言葉の裏をまったく考えない、いい意味でも悪い意味でも直球受け止め型なのです。一方、番組制作のプロフェッショナルで深読みが得意な夫は、常に言葉の裏を読む人です。言葉そのものを直球で言葉通りに受け取る私とは正反対の人なのです。

例えば、夕方、私が夫に「今日はとても疲れた」とふいに言ったとします。すると、夫は「今日はとても疲れた」と言うのは暗に「家に帰って料理したくない」というサインで「外食しよう」と誘われているのかも…と一瞬にして頭の中で読み取ります。でも単純な私は事実を伝えただけ、早く家に帰ってヒールの高いパンプスから解放され、のんびり足を伸ばしたいのです。夫は習慣である深読みや思いやりから勝手に想像を巡らせます。そこからお互い噛み合わない会話がどんどん展開してします。でも結婚して15年。言葉を使ったコミュニケーションを重ねていき、今ではお互いを理解し分かり合えるようになりました。

日本には昔から「以心伝心」「あうんの呼吸」「目は口ほどに物を言う」など言葉を使わないコミュニケーションを美徳とする傾向があります。金婚式を迎えるくらい長年連れ添った夫婦ならともかく、(ひょっとしたら50年のベテランご夫婦であっても)沢山の会話、多くの言葉を紡いでコミュニケーションする方が一緒にいて楽しいですし、小さな誤解がないと思いませんか。

死の間際になって「俺の思いが分からないのか」と言われたとして、それが分からなかった場合、無念でも時間は取り戻せません。もっと早く言って欲しかったということにならないように、普段から思いを言葉にして、それも素敵な日本語で伝え合いたいですよね。思いのこもった言葉、ことだまを相手に伝えるコミュニケーションを私はオススメします。

さて、皆さんは「素敵な日本語を話す人」と聞いてどんな人を思い浮かべますか。おそらく「NHKなどのベテランのアナウンサー」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。私にとってもそれは同じです。そして、個人的には元NHKキャスターで語り部の平野啓子(ひらのけいこ)さん、そして、女優さんでは吉永小百合(よしながさゆり)さんを素敵な日本語を話す人だと尊敬しています。

今日からお伝えする「素敵な日本語レッスン」では、言い間違いの多い表現と正しい表現などを紹介していきます。それを知れば、話す時に相手の言葉が際立って聞こえてきます。そして、これからご紹介する間違い表現を意外にも多くの人が使っていることに気付かされると思います。皆さんが日本語が好きになり、素敵な日本語の使い手となる、ささやかなお手伝いができたら嬉しいです。

私たちの日本語は時代と共にどんどん変化しています。漢字の読みや言葉のアクセントでさえ容易く変化します。間違った読み方や違うアクセントをする人が増えてその数が大半を占めると、その本来の読みやアクセントが古いものだと見なされてしまうのです。間違った読み方、違うアクセントがいつの間にか正しいものと判断されます。

そのため、アクセント辞典や国語辞典を数年前と比べてみれば、変化している言葉の多さに驚かされます。それに気付かされたのは20年前、NHKキャスターになった時です。「NHKでは社会の9割以上の人がそう言い始めてから変更する」と全国の新人キャスターが集まった東京研修で聞かされ、本当に変化していく言葉に驚きました。

例えば、よく問題視される「ら抜き言葉」について。「見れる」「食べれる」などは本来正しくは「見られる」「食べられる」です。多くの人が「ら抜き言葉」を使うようになっているので、ひょっとしたら数年後には「昔は丁寧な『ら有り言葉』を使っていました」という日がくるかもしれません。そんな「ら抜き言葉」については次回お伝えします。

また、10数年前から若者の間で流行した棒読みが正しいアクセントとして一般化しているものも多くあります。そんな棒読みアクセントや尻上がりアクセントについては3日目に詳しくお伝えします。若い世代、東京を中心に「好きくない」「違くない」などという否定表現も気になります。芸能人や著名人の造語の影響も大きいですよね。言葉は時代と共に変化するものですが、美しい日本語の響きは消えずに残って欲しいと願っています。

さて、ここからは皆さんにも参加していただきたいのですが、よろしいですか。

2択問題です。どちらが正しいでしょうか。

第1問「逆手に取る」は、

さかてに取る、それとも、ぎゃくてに取る。どちらの言い方が正しいでしょうか。

第2問「一段落する」は、

ひとだんらく、それとも、いちだんらく。これはどちらでしょうか。

第3問「間髪をいれず」は、

かんぱつをいれず、それとも、かんはつをいれず。どちらが正しいでしょうか。

会話の中で、特に気になる言葉、間違いが多い言葉です。いかがでしょうか。

では、お答えします。正解は3問とも後者です。皆さんは全問お分かりになりましたか。

第1問「逆手に取る」は、不利な状況を生かすこと。相手の責め立てを逆に反論や反撃に利用 するという意味で、「ぎゃくてに取る」が正しい言い方です。ただ、間違いやすい理由は「さかてに持つ」という言葉があるため混合してしまうようです。

第2問「一段落」は、ものごとが一区切りついて片付くという意味で「いちだんらく」が正しい言い方です。一区切り、一仕事など「一」を「ひと」と読む言葉が多いため混合しやすいのかもしれません。

第3問「間髪をいれず」は、間に髪の毛1本さえ入る隙がないことから、少しも時間をあけず即座にという意味で「かん、はつをいれず」と表現します。意味が分かれば言い間違うことがなくなります。

学校や習い事の先生でも間違っている場合があり、それが口癖だったりすると、子どもたちに言葉の響きはすぐに擦り込まれてしまいます。それが後世に正しい言葉として広まっていく原因にもなります。人前で話す立場の人は正しい表現を身につけて欲しいと思います。

今回はたった3つですが、この3つの表現は今日からの会話でさりげなく生かしてください。ひょっとしたら「言い方が間違っているよ」と逆に指摘されるかもしれません。そんな時は相手の指摘が「いち段落」したのを見計らって「かんはつをいれず」控えめに教えてあげてください。相手の指摘を「ぎゃくてに取る」指摘はたとえ正しいことでもしづらいものですが、素敵な日本語の輪を広めるためにこのワンポイント・レッスンをぜひ生かしていただけたら嬉しいです。

それではまた、このページへのご訪問をお待ちしています。よろしければ、コメントも歓迎しております。荒削りな文章に最後までお付き合いいただいて感謝しております。これからも、よろしくお願いいたします。

(2012.11.23掲載)

 

PAGETOP