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第7回 素敵な日本語レッスン3

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第7回 素敵な日本語レッスン3

皆さん、こんにちは。フリーアナウンサーの福満景子です。

2013年が幕開けし、早くも1ヶ月経とうとしています。今年が皆さんにとって幸多き希望に満ちた年になりますように願っております。年明けのあと、司会やユーストリーム放送のキャスター、ナレーションなどのお仕事が重なったため、今月のエッセーは1週間遅れの更新となり、申し訳ありません。何度も訪問してくださった方、ご心配おかけした方にお詫びいたします。

今年の抱負は大好きな「話す仕事」を最大限に生かして人脈を広げ、チャリティーイベント主催やセミナー開設など、皆さんとの直接的な結び付きを大切に取り組んでいきたいと思っています。そして、プライベートでは昨秋から始めたフルート・レッスンを楽しみながら上達し、夏に開催されるサントリーホール(東京)、京都コンサートホールでのコンサートに向けて舞台経験を積んでまいります。

皆さんの応援やご参加を、今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

さて、前々回から「素敵な日本語レッスン」と題して、5回にわたってお伝えしています。3回目の今回は共通語のアクセントとイントネーション、方言についてお伝えします。

まず最初に、方言の対語は共通語という話からします。標準語という人もいますが、「東京を中心とする言葉を標準とするのは方言を蔑ろにしていることにつながる」として、放送などでは一般的に共通語と表現しています。

四季があり南北に長い日本では方言もバラエティ豊かですよね。寒い北の地方は口をあまり開けずに発音できる方言、暑い南の地方では開放的で起伏のある方言などが発達しました。時々、番組ではその違いの面白さで盛り上がる「青森弁と鹿児島弁の対決」が取り上げられますよね。方言は温かみがあり、情緒的で面白い反面、その他の出身者には理解できない場合が多いので、どこにいても誰もがすんなり意思疎通がはかれるようにと、放送や公共の場で共通語が定着しました。

基本的には共通語のアクセントは単語や文節の高低を指し、イントネーションは文章全体の抑揚を指します。アクセントに決まりはなく基本的には一語一語覚えるしかありません。注意が必要なのは同音異義語です。例えば「ハシ」には箸、橋、端があり、それぞれ違うアクセントです。他にも「カキ」は柿と牡蠣。「アメ」は雨と飴。同音の言葉を音声で聞き分ける場合、アクセントが重要なので話すプロを目指す人はアクセントノートを作るのもオススメですよ。

闘病の末に亡くなった元フジテレビアナウンサーの逸見政孝(いつみ・まさたか)さんは大阪弁に苦労し、トイレにもお風呂にも分厚いアクセント辞典を持ち込んで共通語を完全マスターしたそうです。それを知って、才能豊かに見える人の並外れた努力、さすがプロフェッショナルだと尊敬しました。

私の場合もNHK鹿児島放送局でキャスターを始めた時、実家からの通勤だったので、アナウンス部長に「家でも鹿児島弁は禁止」と厳しく指導され、共通語を義務付けられました。おかげで共通語に慣れ、ニュースの後につけるアドリブでも訛り(なまり)が抜けた時は嬉しくて感謝しました。

そうは言っても、テレビやラジオの普及で共通語のシャワーを浴びている私たち、日本のどこにいても共通語をマスターできます。今、アナウンサーを目指して共通語を習得したいという、地方の学生さんも大丈夫です。まずは地元にあるアナウンス学園などで同じ志の仲間と共通語の会話を楽しむことです。習うより慣れろ、が正に近道だと思います。最初は恥ずかしくて抵抗がありますが、すぐに慣れて、それが読みにも生かされると思いますよ。

方言についても触れていきますが、方言には2通りあります。1つは後世に残したい方言、もう1つは誤解を生むため改めるべき方言です。鹿児島出身なので、ここでは鹿児島弁を例に上げて紹介していきます。皆さんも自分の方言を想像しながら読んでくださいね。

例えば、おやっとさあ(おつかれさま)、おかべ(豆腐)、からいも(さつまいも)、てげてげ(ほどほど)などの鹿児島弁は愛すべき方言です。それは地方独特の表現であり、単語そのものが共通語にはありません。唐(から)から伝わったお芋だから鹿児島では「からいも」(他の地域は鹿児島・当時の薩摩から伝わったお芋だからサツマイモ)など、その土地らしさを醸し出す、歴史さえ紐解く素敵な言葉です。

ですが、改めるべき方言は、共通語にもある言葉が方言では別な意味や使い方をする場合です。例えば、おもちゃをなおす(一般的には修理すること。鹿児島弁では片付けるという意味もあります)、そっちに来る(行くの意味で来ると言います)、全部でした(ありませんの意味)、美味しいでした(正しくは美味しかったです)などです。それらは誤解を生むため厳しく注意されました。そんな注意事項を知っているだけで、肩の力を抜いて話せるようになりますよ。

共通語を使って東京で暮らす今、鹿児島弁は味わい深くホッとできる言葉です。「ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」(意味はふるさとのなまりが懐かしく思えて(上野)駅の人ごみの中でそれを注意深く聴く)という石川啄木の有名な句があります。私も時々、鹿児島弁が恋しくて耳をそばだてて聴くことがあります。キャスターになりたての頃は鹿児島弁に苦労させられましたが、今はふるさとの言葉を持っていて幸せだと感じています。

「素敵な日本語レッスン」3回目は言葉足らずかもしれませんが、地方出身者でも共通語について理解を深めてもらいたいと思って書きました。時に方言を織り交ぜつつ、楽しい交流をして欲しいです。そして、共通語が正式の場で認められたドレスとすれば、方言は着心地のいい普段着といっていいかもしれません。ドレスも普段着も上手に着こなして、素敵な日本語の使い手になってくださいね。

長い文章にお付き合いいただいて感謝しています。最後までありがとうございました。 次は「素敵な日本語レッスン4」です。発声や呼吸法などについてお伝えする予定です。次回もぜひお楽しみになさってください。

(2013.1.30掲載)

 

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